数々のメディア媒体が存在する中、それでも決して無くなることはないであろうラジオの魅力ってなんでしょうか…?
テレビの普及、インターネットの一般化などによって全国的に聴取率を稼ぐのが難しいとされているラジオ業界ですが、昨今の地方FM各局がスマホやタブレット、パソコンなどを用いてインターネットで番組を拝聴できるような動きを見せている中で、「地元地域」にこだわった番組作りと「地域限定」の電波発信を続けてきた「いちはらFM(市原FM放送株式会社)」の放送統括プロデューサー御園生 賢司(みぞのうけんじ)さんの取り組み方は、とても興味深いものがあります。
そんな御園生さんに、今回、独占インタビューを行なうことができました。
田舎で言ってもだめ…?
2009年の開局以来、数々の番組を手掛けてきただけでなく、市原市を中心に様々なイベントも企画するなど多岐に渡って地域の魅力を作り上げて来た御園生さん。一般社団法人 関東映像制作者連盟の副会長や株式会社ケンレックの代表として映像コンテンツをプロデュースし、千葉テレビでも地域情報番組としても高視聴率を叩き出してきたという実績もさることながら、何よりも引き込まれたのは背景にある考え方でした。
いろんな話をするんですが、「田舎で言ってもダメだよ」と言われることが多いんです。でも、関東英連(一般社団法人 関東映像制作者連盟)の副会長をやっていて最終的に至った一つの目標は、東京以外の関東に力を入れるということ。
一極集中で東京に全部の情報が集まり、東京のキーステーションがくしゃみをすると全国末端ステーションまでもがくしゃみをするという流れがありますが、そうした地方の末端ステーションの共通の悩みは、大手プロダクションが作ることのできない「穴」を埋めるコンテンツ作りです。
例えば、千葉テレビで旅行番組「旅テレ」というのをやっていて、当時、電通テックさんなどの調査で夕方16時30分という時間帯で最高視聴率5.5%を取ったことがあり、ビッグスポンサーでなくても放送権を取れるということを証明できました。
どんなメディアでも悩むことと言えば共通かもしれません。そのポイントをズバリ明確に指摘。映像メディアに対する見方は、何よりもコンテンツ力が重要であると語ります。
当時から映像メディアを中心に活動し、ウェブの世界にも早くから取り組んできたのだとか。ところが、地元地域ではまだまだ光通信のようなインターネット回線が普及しておらず、技術力はあるものの大容量データを受信できないご家庭が多く、ウェブ動画でのメディア力を確立するところまではいかなかった…。
確かに、この1〜2年の間にようやく房総地域でも動画メディアがたくさん登場してきたように感じますね。でもだからこそ、先を見越した取り組みというのが大切になってきます。
時代の流れというものがありますが、何をするにも1人じゃない。頑張ってやってきてみて、ふと後ろを振り返ると、育てていかなければならない後継者となるべき人たちがいる。育てる義務が自分にはあるんだ、と。立ち上げから6年、必ずしも儲かるわけじゃないと分かってはいても、それでも取り組む必要を感じたのは、時代の後継者につないでいく必要があるから。
そのためか、御園生さんのポリシーの中には、番組制作に携わる一人一人に対して「教える」「育てる」ということをモットーに番組を成長させていくことによる地域の掘り起こしを感じさせられます。
地域活性化は理想に過ぎない…?
番組のスポンサー企画で地元事業者と話し合いをした際に、「地域の活性化のため」という建前と実際の本音とは違うということを告白。簡単には出来やしないと思ったと語ります。
例えば、房総ネタ一つにしても、時期というのがあります。ロケをするにも天候、人材、日取り、準備など、とても大変です。それを映像化して観光に結びつけていく…。関東でそうした映像から観光へと誘導できている成功事例は少ないんです。
北海道などの事例では面白いコンテンツがたくさんあって、関東では規制があって走れないような中継車をうまく使って、地域の情報を中継しながら物販と組み合わせたメディアに融合させるなど、前例としてうまく行っているものもあります。最終的には利益に結びつかないと継続ができなくなる。そうでないと地域が良くならないし、ビジネス媒体にもなりません。面白いかどうかだけではなく、事業としてオイシイかどうかが関係しているんです。
エンドユーザーに向けてディーラーがメディアを通じて結びつくということを考えて…。
利益を生み出す仕組みになるにはエンドユーザーが「得する」ことを考えないといけない、と御園生社長は力強く語りました。
地域のためのラジオとユーザーのための動画メディア
インターネットで誰もが情報発信できるような時代になり、中継車の代わりにスマホ、ヘリの代わりにドローンが登場する昨今、メディアのあり方が大きく変化していることに懸念も。特に、言葉や放送禁止用語、マナーを知らない「記者ごっこ」レベルの情報発信が乱立する中で、研修を充実させ、利益に結びつける報道を模索していると続けます。
地域活性化のためには、情報発信基地としてエフエムを使うというのは意味があると思います。放送局として即日速攻のオンエアができることは地域の力。そういう意味では、サイマルラジオなどのようなインターネットによるラジオ放送にはあまりメリットを感じません。だって、聴かないでしょ?
動画も、アナログからデジタルになった時に一つの時代が終わりました。これまで海外展開してコンテンツを提供していた大手企業も業界から撤退し、今では一般人が小型カメラで撮ったものが情報として流れるようになっています。プロのカメラマンすら不要になってしまいました。
でもそこにはルールというものが欠如していて、モラルがなかったり事故を起こしちゃったり。だからこそしっかり研修していかなければなりません。地域のいろんなネタは「飯の食い種」としてやる気を持つことは大切ですが、同時にお客さんにメリットを作ることを考えなければなりません。
情報は素人が簡単に発信できるという時代になったことを指摘する御園生さん。しかし、だからこそ力を入れないといけないのは、自分たちのような業界の人間だと考えます。
何よりも、業界の人間が頑張ることです。音声屋も映像屋もウェブ屋も、それぞれ飯が食えるプラットフォームを作らないといけない。そのためにはクォリティーが絶対必要なんです。それで、ケンレックなどで培ってきた映像技術といちはらFMが合体し、お客さんがどうしても観たいと思うものをビジネス媒体として提供できることを考える。例えばスマホを持って野球場に行ってライブ中継を観せられるような仕組みを作る、というような…。
GPSやBlutoothなどの技術で、ピンポイントの動画をライブでどんどん切り替えるということも可能になっています。何十台も高価なカメラを持ってロケハンで中継するということは要らなくなります。サッカーのゴールシーンであれば、いろんな角度で撮ることもできます。
モラルを守って撮影や中継ができるプロのメディアとして、ユーザーが求めているものを撮るというジャンルを確立していくことこそが局の砦となる、と語ります。
イベントの意義と地域活性化
イベントをやると、副次的なクレームが増えるということは言うまでもありません。駐車場の確保、人混みによる混乱、ゴミ問題…。それでも、これから増えるであろう地域の外国人への対応や、常に悩みの種とも言われている「空き家問題」などに対して、メディアの人間としてどう関わっていくのかということを真剣に考えている御園生さん。
得意なものがある人は、それを一生懸命やれば良いと思います。地域の活性化に関わっていくにしても、行政に頼ったり求めたりするのではなく、「行政を使う」という視点がないとダメ。そうでないと、イベントを作っても利益が生まれず、続きません。
いちはらFMという媒体を持って、メディアはメディアらしく、自分たちらしく、確たるものを作らなければ。商店街や地域コミュニティーに参加することで、利益が返ってくる仕組みとして。地域にある商店会も、市原には60社あるけど「会に入るメリットは?」と聞かれますからね。
今、私は、サウンドカフェをやりたいと思っています。アメリカの放送局のような、コミュニティーの原点を作りたい。…放送ライブカフェ。フェイスツーフェイスで、そこにはガラスも何もなく、お客さんがお茶を飲みながら接近できるような緊迫感のある放送をしたい。例えば食堂のオヤジが「たった今、美味しいものができたからすぐに来て!」と放送できるような、地元密着のメディアです。
地方は駅周辺で打ち合わせする場所も少なく、昔あった街の喫茶店よりも隠れ家的なカフェが増えました。駅前にないので仕事の打ち合わせとかには使えません。でもそこにカフェがあって、打ち合わせしている横ではラジオなどのライブ放送をやっていて、「見える音声メディア」という楽しみ方で付加価値を生み出すことによって、ウェブも、街も、コンテンツ産業で地域が活性化する手法というのを作り出したいんです。
なるほど、サウンドカフェですか。ゲストが気軽に参加できるようなカフェ、ちょっと行ってみたいですね。
「僕たちらしい」地域活性化
イベントは仕掛けてもお金をもらえないということが多いことも事実。実施することで賑やかすことはできても、それが地域の経済的な賑わいに結びつくわけではありません。それでも、イベントをやるということは、そこに人が集まり、そこで飲食が生まれるということ。だからこそ大切なのだという視点もあるようです。
災害時に、地域を守る必要がありますが、行政の備蓄倉庫じゃ間に合いません。地域の商店や食堂なども含め、日頃からイベントによってお客さんに振る舞えるということが、災害時の「炊き出し」の備えになるわけです。これが、地域を育てていくことになり、まさに地域活性化なのだと考えています。
だからこそ、これまで赤字になると分かっていても地域のためにやる必要がある、という意識がありました。地元の底力を、イベントなどを通じて育てていかなければならない。大切なのは人材育成で、ビジネスの利益よりもそこに力を注いできたからこそ、今の自分があります。
ラジオメディア、映像メディア、そしてITへの取り組みとネットワーク構築。そこに地域イベントを融合させて、地元の強さを育てていく。いちはらFMの取締役が考えていたことは、単なる一つのメディアとしてのラジオ局ではなく、そのバックグラウンドにある「地域を強くする」というポリシーに基づいた総合メディアだったのです。
タレント育成も然り、各種セミナーやイベントも然り。情報メディアとしてなんでも手掛けていける商売だからこそ、僕ららしいやり方というのがある。
反感を抱かれるかもしれないような発言も、実際にはそれがその人にとってとてもメリットのあることであるとすれば、それはやるべきだという御園生さん。
その力強い言葉の背後には、地域に対する愛と、市民に対する優しい思いがあったんですね。
[いちはらFM]