留守をするときに仕掛けておくのが留守番電話です。「只今留守にしております。ピーッと言う発信音の後にご用件をお話し下さい」は聞きなれたフレーズです。
最近は留守でなくても、先ずは誰からの電話か留守番で出ておいて、必要な電話にだけに出直すと言う人も多いようです。実際、私が掛けた電話に録音の声で「留守にしています」と言った後で、私と分かって慌てて「もしもし」と本人が出ることが多いのです。留守電話の使い方もいろいろで面白いものです。
いっそのこと開き直って、居留守番電話と言う名の電話にして「只今、居留守を使っております。御用の向きを録音してくだされば、必要なことには折り返しお電話させていただきます」としたら面白いと思う。
さて、不在でも居留守でもない留守番電話があります。知り合いの蕎麦屋の電話がそうです。
予約を入れようと電話すると、奥さんの声で「やぶ蕎麦です、営業してます」の一言を言ってすぐ切れます。お店が忙しいから電話に出られないときの対策です。出前に出られるときは、電話にさっと出ますし、お店が休みとときは、電話を掛けても呼びっぱなしで出ません。
景気のいい江戸っ子な留守番電話ですね。
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藪蕎麦のお隣にイタリアレストランがあります。小さいお店ですがおいしいと有名です。滅多に行きませんが、いくときは電話で予約します。混んでいて入れなったということはありませんが、予約を入れておくと「○○様」とプレートをテーブルに立てて出迎えてくれます。
電話の応対も丁寧で、おしゃれな感じで好感がわきます。「ご予約の状況を確かめてまいりますのでしばらくお待ちください」と言い、やがて「ご予約承れます、お待ちしております」と言う。その間に微妙な間があり、先約が入っていて、その日時は無理かとちょっと心配になります。しかし大概、予約は大丈夫で、それを聞くとホットします。ちょっとした達成感があり、来店が楽しみになります。
ある日、食事を終えてレジに立った時、お店の電話が鳴りました。店員さんは、レジを背にして電話に出て、予約を取っています。電話台の脇のデスクカレンダーを開けてお客さんと話をしています。一頻り話をして、そこへボールペンで書きこんでいるだけです。予約の確認などお客さんと話をしているうちに分かっていることなのです。確かめてまいります、と言ったってどこへも行きません。
考えると、これはお店の雰囲気づくりの一つかもしれません。気を持たせる食前酒みたいな電話ですね。